東日本大震災のとき、犠牲者の約65%が60歳以上だったとされています。2024年の能登半島地震でも、高齢者・要介護者が孤立した集落から逃げ出せず、長期間救助を待つという状況が各地で起きました。
「大規模災害のたびに同じことが繰り返される」——そう感じている方は多いと思います。ただ、繰り返されている本当の理由は、「備えていなかったから」ではなく、「誰も自分のこととして考えてこなかったから」ではないでしょうか。
介護タクシーポータルとして、平時から使っている移送サービスが災害時にどう機能するのか、そして今のうちに何をしておくべきかを、正直にお伝えします。
なぜ要介護者は災害時の移動が難しいのか
自力での避難が困難な要介護者・障がい者は、災害時に最も深刻な移動問題に直面します。2011年東日本大震災・2018年西日本豪雨・2024年能登半島地震など、大規模災害では高齢者・要介護者の被害割合が一般人口より高くなることが繰り返し示されています。
災害が発生してから「どうしよう」と考えるのでは遅く、平時からの準備と登録が命を守ることにつながります。
避難行動要支援者名簿への登録(最も重要な平時準備)
「避難行動要支援者名簿」とは、災害時に自力での避難が困難な方を市区町村があらかじめ把握するための名簿です。2013年の災害対策基本法改正により、すべての市区町村で作成が義務づけられています。
・要介護3以上の認定を受けている方
・身体障害者手帳1〜2級(心臓・呼吸器・腎臓等1級を含む)
・療育手帳A1・A2
・精神障害者保健福祉手帳1級
・独居高齢者・高齢者のみの世帯
※ 対象基準は自治体によって異なります
市区町村の防災担当課・福祉担当課の窓口で申請。または担当ケアマネジャー・地域包括支援センターを通じて申請できる場合があります。年に1回程度、情報の更新確認が行われます。
2021年の法改正で、要配慮者一人ひとりの「個別避難計画」の作成が市区町村の努力義務になりました。「誰が・どのルートで・どこへ・どうやって避難するか」を具体的に決める計画です。ケアマネジャー・民生委員・地域住民と連携して作成します。まだ作成していない方は担当ケアマネジャーまたは地域包括支援センターに相談しましょう。
平時からやっておくべき5つの備え
- ① ハザードマップで自宅・通院先の危険度を確認する:洪水・土砂災害・津波の浸水域を国土交通省「ハザードマップポータルサイト」で確認。危険な場合の避難先・避難ルートを事前に決めておく
- ② 避難先(福祉避難所)を把握しておく:介護が必要な方向けの「福祉避難所」の場所を市区町村の防災マップで確認。事前見学も有効
- ③ 近隣との関係を築いておく:大規模災害時は介護タクシーを含む専門的な移送が機能しない場合があります。近隣住民・自治会との「もしもの時は助け合い」の関係が最後の砦になります
- ④ 介護タクシー事業者に災害時の対応を確認しておく:定期利用の事業者に「大規模災害時の連絡方法・対応方針」を平時に確認しておきましょう
- ⑤ 医療・介護用品の備蓄:薬・介護用品・酸素ボンベ(使用者)を最低3日分、できれば7日分備蓄。処方薬の「お薬手帳」のコピーと主治医の連絡先を防災袋に入れておく
台風・洪水など「事前に分かる災害」での介護タクシー活用
地震と異なり、台風・大雨・洪水・火山噴火など予測が可能な災害では、事前に介護タクシーを手配して安全な場所へ移動する「事前避難」が有効です。
- 台風上陸の1〜2日前:事業者に「台風接近前の避難移送」を相談・予約
- 洪水・土砂災害の警戒レベル3(高齢者等避難)発令時:すぐに連絡できるよう事業者の緊急連絡先を手元に準備
- 大雪・路面凍結が予想される場合:通院・外出の前日から介護タクシーへの切り替えを検討
避難勧告・避難指示(警戒レベル4・5)が出てからでは、介護タクシー事業者も対応できない場合があります。早めの判断と早めの手配が重要です。
相談・情報収集の窓口
| 相談内容 | 窓口 |
|---|---|
| 避難行動要支援者名簿への登録 | 市区町村の防災担当課・福祉担当課 |
| 個別避難計画の作成 | ケアマネジャー・地域包括支援センター |
| 福祉避難所の場所の確認 | 市区町村の防災マップ・防災担当課 |
| ハザードマップの確認 | 国土交通省「ハザードマップポータルサイト」 |
| 医療・介護用品の備蓄に関する相談 | 担当医・訪問看護師・ケアマネジャー |
「個別避難計画」——名前だけ知っていても意味がない
2021年の災害対策基本法改正で、要配慮者ひとりひとりの「個別避難計画」作成が市区町村の努力義務になりました。しかし、名前を知っている方は多くても、実際に自分の計画を持っている方はまだ少ないのが現状です。
個別避難計画に書かれるべきこと
- 誰が助けるか:近隣住民・民生委員・自主防災組織のうち、実際に動ける人が明記されているか
- どのルートで避難するか:車椅子・ストレッチャーで通れるルートか、段差・坂の有無
- どこに避難するか:一般の避難所か、福祉避難所か
- 何が必要か:薬・医療機器・介護用品のリスト
- どんな支援が必要か:身体介助の内容、コミュニケーション方法(認知症・難聴等)
「計画が作られていない」という方は、担当ケアマネジャーまたは地域包括支援センターに「個別避難計画を作りたい」と伝えるだけで、手続きが動き始めます。
計画を「紙に書いて終わり」にしない
計画を作っても、実際に近隣の支援者と一度顔を合わせておかなければ意味がありません。自治会の防災訓練や避難所の事前見学など、「顔の見える関係」を作ることが、計画を「生きた計画」にします。
「予測できる災害」では介護タクシーを使った事前避難が有効
地震と違い、台風・大雨・洪水・噴火は「来る前に動ける」災害です。この違いを最大限に活かすことが、要介護者の安全につながります。
早期避難のタイミング——警戒レベルで考える
- 警戒レベル1〜2(台風接近の2〜3日前):事業者に「台風前の避難移送を予約したい」と問い合わせておく最適なタイミング
- 警戒レベル3(高齢者等避難)発令時:すぐに動ける準備が整っているか確認。連絡先を手元に持っていれば、ここで電話できる
- 警戒レベル4(避難指示)以降:介護タクシー事業者も対応困難になることが多い。このレベルになってからの手配は遅すぎる
「自分は大丈夫」という感覚は、実際の被害が起きてから覆されます。警戒レベル3の段階で動ける準備をすることが、要介護者にとっての現実的な「安全マージン」です。
「今日できる準備」——一つだけやってみるとしたら
災害の備えは「全部やろうとすると何もしない」になりがちです。まず一つだけやってみるとしたら、次のことをおすすめします。
📋「避難に必要な3つのこと」を紙に書いて玄関に貼る
- 避難先(どこへ:施設名・住所・電話番号)
- 助けてくれる人(誰が:近所の○○さん、民生委員の△△さん)
- 持ち出すもの(何を:薬・介護用品・保険証・連絡先メモ)
これだけでも「いざというとき何もわからない」状態を脱することができます。紙に書いて目に見える場所に貼っておくことが重要で、「頭の中にある」では家族にも伝わりません。この紙を担当ケアマネジャーにも渡しておくと、緊急時の連絡が速くなります。
「福祉避難所」を事前に把握しておく
一般の避難所では対応しきれない要介護者・障がい者のために、「福祉避難所」が各市区町村に設置されています。ただし、一般の避難所とは異なり、誰でも入れるわけではなく、事前に登録・確認が必要な場合がほとんどです。
- 福祉避難所の場所・連絡先をお住まいの市区町村ウェブサイトで確認しておく
- 「自分は福祉避難所の対象になるか」を担当ケアマネジャーまたは市の担当窓口に確認する
- 福祉避難所への移動手段(誰がどうやって連れて行くか)を事前に確認しておく
「そういう場所があるとは知らなかった」——これが最も多い後悔です。今日確認しておきましょう。
介護タクシー事業者も、大規模災害時は自分たちの家族・事業所を守ることで精一杯になります。「いざとなれば介護タクシーを呼べる」という考えは、残念ながら大規模災害時には通用しません。
だからこそ、平時のうちに名簿に登録し、近隣と顔なじみになり、避難先を決めておくことが必要です。介護タクシーは「日常の移動を支えるツール」であり、平時の準備が整った上での補完的な手段です。ぜひ、今日から一つ動いてみてください。